恋人は魔王様
駅の近くの公園で、立ち止まった。
桧垣から手を放して息をつく。

だいたい、普段運動不足だからすぐに息が上がっちゃうんだよね。

「早乙女さんって、噂どおり、アグレッシブだよね」

「……噂?」

そんな噂どこで誰がしてたんだろう。
桧垣はちっとも息なんて切らしてなくて、面白そうに笑っていた。

「ううん、なんでもない。
こっちの話。
折角二人っきりになれたんだしさ。
一緒にホテルにでもいかない?」

……パードゥン?

私は耳を疑った。
最近ではこういうのが流行っているのかしら。

それとも、今度は天使の末裔とでも言い出すんじゃないかしら。

私はあっけに取られてぽかんと馬鹿みたいな顔で、桧垣を見ていた。
見た感じはどっからどう見ても普通の高校生って感じだけど。

あ、キョウだってどっからどう見ても、イケテル芸能人って感じだしなぁ。


やだ。
私、どうしてキョウのこと思い出してるんだろう。

うっかり赤面しそうになる。
やばいやばい。

「照れちゃって、可愛いね」

……ほら、誤解された。

「行くわけないじゃない、私、帰るね」

私はすたすたと駅に向かって歩く。

ぐい、と、後ろから強い力で手を引っ張られた。

「帰すわけ、ないだろう?」

確かにそれは桧垣の声だったけれど、なんだか、陰が篭ったひどく嫌な感じのする声だった。
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