黒い怪物くん
新しい浴衣で、お兄ちゃんに髪もやってもらったのに鷹哉は少し前を歩いていて、あまりこっちを見てくれない。
せっかく鷹哉に可愛いって思ってもらいたくて準備万端にしてきたのに……。
「鷹哉…今年浴衣新しいの買ったんだよ?」
「……あぁ。そうだな。去年と違うな」
「…ねー…去年のとどっちのが可愛い?」
「どっちがって言われても…色も柄も同じ様な浴衣じゃねぇか」
「違うもん……もっとちゃんと見てよー」
私は鷹哉のTシャツをクイッと引っ張ってそう言った。
「は?毎年見てんじゃん。小鳥の浴衣姿もう5回目」
「…むぅ…今年は彼女なのに…。浴衣可愛くないんだ?」
「………毎年可愛いと思ってるっつーの」
鷹哉は声を小さくしてそう言ってくれた。
「ふふふっ!ありがとう…じゃあ、可愛いって言ってくれたお礼に手を繋いであげるよ」
初めてのデートだし、手繋ぎたい…。
付き合う前は、泣いてる時と、寝ぼけてる時に手繋いでくれた事はあるけど、付き合ってからはまだ繋いだ事がない。
「フッ…お礼とか言って小鳥が繋ぎたいだけだろ?」
「違う!私は繋がなくても良いけどさ…鷹哉が繋ぎたいかなって…」
「俺も繋がなくていいけどな」
あ…またやっちゃった…。
鷹哉は、そう言ってさっさと歩き始めた。
「鷹哉ぁ…待ってぇ」
「トロい小鳥は置いていく」
お祭りの会場まで鷹哉を追い掛けるように小走りをしていたら…もう靴擦れをしてしまった。
鷹哉は人混みに入ってしまってどんどん離れて行く。
そして遂に見失ってしまった。
もう…何でこうなるの!?ちゃんと手繋ぎたいって言えば良かったのかな…
違う!私が悪いんじゃないもん…鷹哉ってば、私の事大事にしてくれるなんて言ってたくせに!
靴擦れが痛くて近くの座れそうな石段のところに座って下駄を脱いだ。
……絆創膏忘れちゃった…。
いつもお兄ちゃんが持ってたから意識していなかった。
普段お兄ちゃんに頼りすぎていて、ちゃんとしていなかった自分が腹立たしい。