ヒーローの進化論
それからの私はやけになって、タイプでもないはずの山井くんを追いかけた。
隣の席で授業を受けたり、休日には遊びに誘ったり(2人きりでは絶対に来てくれなかったけど)、帰りの乗り換え駅で待ち伏せしたり。
絶対、この男の記憶に残ってやりたいと思っていた。
そんな中で、やはり気付くことがある。
その無表情が少しだけ緩む瞬間、目線の先にいる相手。
濃い化粧で自らを飾ることなんてない、高さのある靴で背伸びしようなんて思わない、恥ずかし気もなく顔をくしゃくしゃにして笑うような女の子。
まるで私とは正反対の。
二人が話しているところを見たのは数回だけ。
あの女の子だって、いつも彼を見つめているけど。私みたいにアクションを起こさない、起こす様子もないことに安心していた。
だけど彼女は今、笑顔の山井くんの前にいる。
食堂の中に乗り込む勇気なんてなくて、そもそも乗り込んだところで何か出来ることもなく、そんな2人をぼーっと見ていた。
なんだこれ。
おかしいな、胸が痛いんだけど。
そんな時、山井くんの視線がふと逸れて、窓の外にいる私を捉えた。
分かり切ってはいたけど、私に向けられるのは無表情。先ほどの笑顔は幻だったのかとさえ思えてくる。
でも、彼が見る私はいつも可愛くなきゃいけない。
負の感情が透け出る、不細工な顔なんて見せられないから。
精一杯の笑みを携えて、ガラスの向こうの彼に手を振った。
あの女の子も気付いて私を見る。
少しの嫉妬が浮かぶような、悲しそうな表情を見てると、少しだけ気持ちが落ち着いた。
だけど、手を振り返すことなくこちらに目を向けるだけの山井くんを見てると、今まで自分がしてきたことは何だったのかと思えてくる。嫌になる。
手くらい、振り返してよ。
そんな無関心な目線、向けないでよ。
結局、彼が私に反応を示すことはなく、感情のない視線は逸れていった。
彼に向けた私の右手は、宙を彷徨うだけ彷徨って、力なく落ちた。