ヒーローの進化論


「俺の名前知ってんだね」


知ってるも何も、同じ学部で山井という名を知らない女の子はいないんじゃないか。


「知らない訳、ないですよね」

「へぇ、なんで?関わりないって言ったのは西野のほうじゃん。知らない訳、ないの?」


なんて意地悪な質問をしてくるのだろうか。
責めるような目線を、こちらに寄越す。

今まで、何を考えているか分からない、無表情だと感じることが多かったけれど、実はそんなことはないのかもしれない。


「だって、私とは関わりなくても、山井くんは有名だし…」

「有名、ねぇ。」


缶コーヒーを飲む彼の目線がふと逸れて、その先を辿ると。食堂の窓の奥、外の並木道からこちらに手を振る女の子の姿があった。

よく山井くんの隣で授業を受けている人だ。

緩く巻いたブラウンの髪が風に揺れて、ふわふわしてる。砂糖菓子のような甘い雰囲気の可愛い女の子。

山井くんは相変わらずその子を見つめたまま。


「…彼女、手振ってますよ?」

「知ってる」

「なら、」

「めんどくさいからいいよ」


そう悪びれることなく、言い放った。

私の中であの子は、山井くんの彼女だという認識だった。
いつも可愛く側にいて、いつも笑顔で彼に話し掛ける姿を見ていたからだ。

そういう”特別であるはず”の人に対してもこの態度。

誰が彼を、捕まえられるというの。

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