ヒーローの進化論



「…さっきの、彼女じゃないから」


突然の話題変換に、思わず変な顔をしてしまった。


「さっきの女。俺に手振ってたやつ」

「は、はぁ」

「あれ、彼女じゃない」


山井くんの意図が全く分からない。
理解しようと考えを巡らす私に、涼しい目線を向けてくる。

どうしてそんなこと私に言うの?
あの女の子が山井くんの彼女じゃなかったとして、他に別の人がいるってことを伝えたいの、か?
どっちにしろ、私には複雑な感情しか抱かせないのに。

一人でオーバーヒートに陥る私に、彼は爆弾を落とした。


「笑(えみ)」

「っえ、」

「笑だろ?西野の名前」


この時の私の顔は、きっととても酷いものだった。

だって、山井くんが私の名前を呼んだ。


「西野笑」


あの山井くんが、私の名前を呼んだ。

同じ教室で初めて授業を受けたあの日から、ずっとずっと見ていた人が私の名前を呼んだ。


「良い名前だなぁって思ってた」


なぜかそういう時に優しく微笑むものだから、私はすっかり動揺してしまった。

名前を呼ばれるってことだけでも天にも昇るような気持ちで、だけどそれだけならまだ耐えることが出来たかもしれない。
気持ちを押さえて押さえて、ぎこちないながらも笑って会話を続行出来たかもしれないのに。

山井くんがあまりにも優しく笑い掛けてくるものだから。



あろうことか、私は泣いた。

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