ヒーローの進化論
2. こんなはずじゃ
私は自分に自信がある。
人より少し可愛く生まれて、そこそこ頭も良い。
時には馬鹿のフリをしたり、そして時には控え目で弱い自分を演出したりもする。
場に応じて、求めれる“私”を理解した上で演じられる。
恋愛相手に困った事はない。
狙った大抵の人は私を好きになるし、私自身もそういう相手を選んでいる。
私を大事にしてくれる人、女の子として可愛がってくれる人、もちろん他の女を見るなんて言語道断。
高望みなんかじゃない。
案外そういう男はすぐ見付かる。
だから、こんなはずじゃなかった。
梅雨が明けて、朝からかなり気温があったあの日。
家を出る前から調子は良くなかったけど、電車に乗るとそれは更に悪化した。
通勤通学のラッシュは過ぎてはいたけど空いてる座席なんてなくて、つり革に掴まりながら必死にふらつく身体と格闘していた。
こんな日に限って高いヒールのサンダル。
1時間前の自分を呪った。
乗り換えの駅に着いて、どうにもこうにもなくなって。倒れ込むように駅のベンチに腰掛けた。
授業に間に合わなくなる、このまま帰ろうか。
でも、下りの電車に乗り込める状態でもない。
「大丈夫、気分悪い?」
俯いたまま動けない時を過ごしていると、頭上から男の声がした。
私のサンダルに向かい合うようにして現れた、スニーカーの足元。
大丈夫じゃないし。
見たら分かるでしょ、声掛けないでよ。
こんな状態の女に声を掛けてくる男に、ろくなやつはいない。酔ってる女の介抱なんかして弱味につけこもうとする、あれ。
同じ部類のやつ。
無視を決め込む。
誰かと話している余裕なんかない。
「医務室行く?駅員に聞いてくるわ」
だけど、そんな声とともに視界に映るスニーカーが歩き出そうとしたので思わず顔を上げた。