桜舞い散るとき、キミは涙する

ナンパとか一目惚れとか、そんなんじゃなくて……。


もしも本当に彼が何か困ってたり悩んでいたのなら、力になってあげたかったな。



初めて会った相手なのに、自分でも理解できない不思議な感情が、胸の奥からわいてくる。


この気持ちが何なのか知りたくて何気なく後ろを振り返ると、先程彼と別れた場所に、いまだ彼は一人たたずみこちらを見ていた。



っ!?


ドクンッと心臓が高鳴る。



本当はもう一度戻って話したい。

きちんと話を聞いてあげたい。


けれど実際問題、私は彼の知り合いでもなんでもない。

ただの『人違い』。


そんな私が何かをしたところで、彼にとっては単なるお節介でしかないだろう。



せり上がる気持ちをグッとこらえ、再び前を向いて歩き出す。


そして瞼の裏に焼き付いた彼の残像を振り払うように、小走りで駅へと向かったのだった。
< 11 / 111 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop