桜舞い散るとき、キミは涙する
ナンパとか一目惚れとか、そんなんじゃなくて……。
もしも本当に彼が何か困ってたり悩んでいたのなら、力になってあげたかったな。
初めて会った相手なのに、自分でも理解できない不思議な感情が、胸の奥からわいてくる。
この気持ちが何なのか知りたくて何気なく後ろを振り返ると、先程彼と別れた場所に、いまだ彼は一人たたずみこちらを見ていた。
っ!?
ドクンッと心臓が高鳴る。
本当はもう一度戻って話したい。
きちんと話を聞いてあげたい。
けれど実際問題、私は彼の知り合いでもなんでもない。
ただの『人違い』。
そんな私が何かをしたところで、彼にとっては単なるお節介でしかないだろう。
せり上がる気持ちをグッとこらえ、再び前を向いて歩き出す。
そして瞼の裏に焼き付いた彼の残像を振り払うように、小走りで駅へと向かったのだった。