桜舞い散るとき、キミは涙する

* * * * * *


「ただいま~」


あのあとなんとかバイトの時間に間に合い、それから4時間ほどの労働を終え、現在時刻は午後の9時半。


くたくたになって家の玄関のドアを開けると、食欲をそそるいい匂いが部屋中に広がっていた。


「カレーだ!」


大好物のカレーの香りに、一気に疲れが吹っ飛びテンションが上がる。


いそいそと靴を脱ぎ捨て家へあがると、カレーの味見をしていたお母さんが「おかえりなさい」と笑顔で迎えてくれた。



「私も味見したい!」


子供のようにはしゃぐ私に、お母さんが「ダ~メ」と、額にデコピンしてくる。


「痛っ!えー、なんでー!?」

「まだお父さんに挨拶してないでしょ?それに、手洗いうがいもね」

「う……、そうだった」



お母さんにたしなめられ、茶の間にある小さなタンスの上の写真立てに手を合わせる。


写真に写っているのは、優しい笑顔の若い男性。



「お父さん、ただいま」



それは一度も会ったことのない、私のお父さんだった。
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