桜舞い散るとき、キミは涙する
『お父さん、今日も一日元気で過ごせたよ』
いつも通り、心の中で写真のお父さんに一日の報告をする。
そうして目を瞑っていると
「実紅~、お父さんのお水も換えてちょうだ~い」
お母さんの大きな声が聞こえてきた。
「ハ~イ!」
私もお母さんに負けないくらい大きな声で返事をし、写真立てと並べて置かれている、青いチェック柄のマグカップに手を伸ばす。
このマグカップは、恋人同士だった頃のお父さんとお母さんがお揃いで買った唯一の物。
ある意味、お父さんの形見のような物だ。
タンスの上に置かれているのは、他は花瓶に飾られたお花と、お父さんの好物だったチョコレートだけ。
結婚を周囲に反対されていたくらいだから、お父さんの位牌なんて、もちろんうちにはないのだ。