桜舞い散るとき、キミは涙する
あ、いた!
改札を出るとすぐに、壁にもたれて文庫本を読んでいる保志君の姿が目に飛び込んで来た。
黒いTシャツに、細めの青いストレートジーンズ。
いつも腕にはめている、黒いスポーツタイプの腕時計が、よりカジュアルさを引き立てている。
シンプル イズ ベスト。
まさにその表現がピッタリだ。
カッコイイ……。
声をかけるのも忘れ、しばらくその姿に見惚れてしまう私。
そんな私に気付いた保志君が、パタンと文庫本を閉じた。
「ご、ごめんなさい!遅くなっちゃって」
待たせてしまった罪悪感から、謝罪の言葉が真っ先に口をついて出る。
「1時55分」
「え?」
駅構内の壁掛け時計を指さし、保志君が呟く。
「全然遅くなんかないよ」
「あ、ありがとう……ございます」
保志君の何気ない気遣いに、胸がキュンとなる。
表情こそいつもクールだけど、一つ一つの言動や行動が、本当に優しい。
「それじゃ、行こうか」
「は、はいっ」
行くって、どこへ?
行き先が気になったものの、やっぱり保志君の前だと緊張して、何も言えなくなってしまう。
結局行き先も用件もわからぬまま、彼のあとを追うように静かに歩き始めた。