桜舞い散るとき、キミは涙する
コンコン
保志君がドアをノックする音が、静寂に包まれた院内に響き渡る。
その直後
「どうぞ」
やや低めの男性の声が、診察室から聞こえてきた。
「失礼します」
凛とした声と共に、保志君が診察室へと入って行く。
「失礼……します」
戸惑いつつも、私も保志君のあとに続き、診察室へと足を踏み入れた。
ツンと鼻をつく、病院特有の消毒薬の匂い。
視界に飛び込んで来たのは、机でレントゲン写真らしき物を見ている、白衣を着た男性の後姿。
その背中に向かって、保志君が言葉を放つ。
「昨日話した女性を連れて来ました」
敬語!?先生って確か、保志君のお父さんって言ってたよね!?
お金持ちの家庭は、家族同士の言葉遣いまでそもそも違うの!?
私がちょっとしたカルチャーショックを受けていると
「そうか」
白衣の男性が、座っていた回転イスをクルリと反転させこちらを振り返った。