桜舞い散るとき、キミは涙する

コンコン


保志君がドアをノックする音が、静寂に包まれた院内に響き渡る。


その直後


「どうぞ」


やや低めの男性の声が、診察室から聞こえてきた。


「失礼します」


凛とした声と共に、保志君が診察室へと入って行く。


「失礼……します」


戸惑いつつも、私も保志君のあとに続き、診察室へと足を踏み入れた。



ツンと鼻をつく、病院特有の消毒薬の匂い。


視界に飛び込んで来たのは、机でレントゲン写真らしき物を見ている、白衣を着た男性の後姿。


その背中に向かって、保志君が言葉を放つ。


「昨日話した女性を連れて来ました」


敬語!?先生って確か、保志君のお父さんって言ってたよね!?

お金持ちの家庭は、家族同士の言葉遣いまでそもそも違うの!?


私がちょっとしたカルチャーショックを受けていると


「そうか」


白衣の男性が、座っていた回転イスをクルリと反転させこちらを振り返った。
< 42 / 111 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop