桜舞い散るとき、キミは涙する

「それじゃあ、まずカルテを作るから。ここに住所と氏名、連絡先を記入してね」


先生から差し出されたのは、ボールペンと『問診票』と書かれた紙。


カルテに問診票……?なんで……。

あっ!



ここにきてようやく、診察室に通された意味がわかった。


単なる謝罪だけじゃなく、私は診察を受けるために今日ここへ呼ばれたのだ。



「あのっ、でも私、保険証とか持って来てなくて。それに……お金も足りないかも……」


整形外科の診察といえば、レントゲンはつきもの。


高校生の私には、診察料がどれくらいかかるのか見当がつかない。


あわあわと青くなっている私をよそに


「それなら心配いらないよ」


先生が優しく微笑む。


「もともとうちのバカ息子のせいだし。むしろこちらから出向いて、親御さんに謝らなくてはならないんだから」

「い、いえ!そんな……っ」

「ただ、往診だとどうしてもレントゲン検査ができないから、申し訳ないが今回は御足労願ったんだよ。
だからもちろん、診察料はいらないよ」

「なんだか……すみません」



あざ程度のケガで診てもらうのも申し訳ないけれど、これ以上断るのもなんだか忍びない。


私は紙に必要事項を記入すると、ありがたく先生の好意に甘えることにした。
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