桜舞い散るとき、キミは涙する
「俺が使ってた参考書。解説とか、すごくわかりやすいから」
「でも、それだと保志君が……」
「俺はもう使わないから。使い古しで悪いけど、いらなかったら処分してくれて構わないから」
「…………」
参考書が欲しいなんて、とっさについた嘘だったのに……。
わざわざ、そんな私のために来てくれたの?
驚きと嬉しさで、言葉が出ない。
呆然と立ち尽くす私に
「そろそろ次の電車が来るから。俺、もう行かないと」
保志君が腕時計に視線を落とし、淡々と告げる。
「それじゃ」
そう言って、いつものようにさらりと立ち去る保志君の背中に
「あのっ、ありがとう!」
周囲の目も気にせず、慌てて大きな声でお礼を言った。
足早に歩いていた保志君の足が止まり、不意にこちらを振り返る。
私に軽く会釈をしたその表情は、心なしかいつもより柔らかく見えた。