桜舞い散るとき、キミは涙する
「ないないない。あるわけないって、そんなの」
通常モードの佳奈に戻すため、わざと冷めた声で言い放つ。
「え~?だってどう考えたっておかしいじゃん。
単なる間違いだったら『人違いでした~』って、すぐ立ち去るってのが普通じゃない?」
「まぁ、それはそうだけど……」
「でしょ~?」
よくよく考えてみると、確かに単なる人違いにしては少々おかしい。
佳奈の言う事も一理ある。
けれど……
「でも、ものすごく真剣で真面目そうだったし。
軽はずみにナンパするような人には見えなかったけど」
氷のように冷たい手と、悲しみに満ちた彼の瞳が、鮮明に脳裏に蘇る。
あんな目をした人がナンパ目当てで声を掛けてきたなんて、やはり到底思えない。
困惑の色を浮かべる私に
「甘~い」
「っ!」
佳奈がビシッと人差し指を向け、否定するようにチッチッと数回舌打ちをする。