桜舞い散るとき、キミは涙する

「今ここから、飛び降りようとしてたでしょ!?」

雨の中に響き渡る怒号(どごう)。

保志君の顔が、くしゃりと自嘲(じちょう)気味に歪(ゆが)む。

「そんなつもりなかったけど……。それも……いいかな……」

「っ!!」

苦笑いを浮かべ、目を伏せる保志君。

信じられない彼の言動に、クラクラと眩暈(めまい)がする。


そんな……そんな悲しいこと言わないで……。


改めて実感した、保志君の心に潜(ひそ)む深い闇。

そして、改めて思い知った、美桜さんの存在の大きさ。


清水君の言う通り、保志君の中で美桜さんは、いまだ『過去の人』になってはいなかった。


胸が、痛い。

心が、痛い。


地面にぶつけた体よりも、何倍も、何十倍も。


それでも彼が抱える心の痛みは、きっと私のものとは全然比べ物にならないのだろう。
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