男狼

禁忌

男狼 第11話

「「また、会ったね」」

真後ろにいたレンのその声は、

何だか悲しそうに聞こえた。

憐はレンの姿を確認すると、

圭の前へと飛び出た。

「「もしかして、後ろの子を守ってるつもりかい?」」

前に会った時とは、全く雰囲気が違うことに、

憐は戸惑う。

「うるせぇ!!消えろ!

願いなんか、叶えてもらわなくていいよ!」

「「願い…………?」」

レンの顔が恐ろしい形相へと変わる。

「「バカにしてるのか?」」

その瞬間、教室の窓ガラスが、

全て割れた。

「「…………取り乱したよ。

……願いを叶えにきたんじゃない」」

レンの雰囲気がまた、少しましになる。

「何……?」

憐が詳細を聞く。

「「禁忌を破った、罰を与えにきたんだよ」」

憐の頭に、1つの禁忌が浮かぶ。

化け物と言ってはならない。

やっぱり、あの本に書いてあることは、

本当だったんだ、と憐は思う。

「「でも、仕方ない。

‘ついで’だから、願い、叶えてあげるよ」」

レンは圭に手をかざした。

「「‘身長が、高くなりたい’のか…………
いいよ」」

そうレンが言った途端、圭の体に異変が起きた。

「う、うわ…………あああ」

圭の身長が、少しずつ伸びてゆく。

だが、それに比例してお腹を膨らんで…………

「う…………うう。
止めてくれ………………

このままじゃ……は…れつ………………」

圭が必死に声を出す。

「やめろ!おい!やめろよ!!」

憐の叫び声は、レンには届かない。

どんどん圭は大きくなってゆく。


パンッ


あまりにも呆気ない音の後、

教室は圭の血で、

真っ赤に染まった。

もちろん憐も、レンも例外ではない。

2人とも、真っ赤に染まっている。


静かな教室で、絶望した表情で、

ついさっきまで、“彼”がいた場所を呆然と眺める少年と、

それを見て笑みを浮かべる少年。

顔も同じその少年達の姿は、

何か不吉な感じがした。

そう、不吉。

奇妙。

そんな言葉が、とてもよく似合う光景だった。



「お前は………………何で人を殺すんだ……?」

憐が聞く。

「「本を読んだんだ。
分かるだろ?」」

レンは冷たく言う。

「俺達が…………悪いのかよ、、、
願っちゃ…………いけないのかよ……!」

憐が、一筋の涙を流す。

そして手で、1度涙を拭う。



「「願うことは、悪くない。

…………君たち自身は、悪くない。
願うことは、罪ではない」」

レンはふと、昔のことを思い出す。

「「だが、代償がいるんだ……
どんなものにも………………

禁忌は犯してはならない……」」

レンは、今にも泣きたくなった。

だがレンには、涙が出せない。

あまりにも、ショックな出来事だったから。

泣けなくなったことも、

1つの代償なのかもしれない。

「「悪いことには、良いことが。

良いことには、悪いことが、

ついてくるんだ」」

レンは悲しそうに言う。

「でも…………!
あの4人の願いは、些細なものだった!」

憐が言う。

「「バタフライ現象」」

レンはそう言う。

「「使い方は間違ってると思う。

意味も勘違いしてるに等しい。
でも、原理はそれだ」」

憐は、なんとなくだが、

納得してしまった。

そして今度は、納得してしまった自分が憎く思えた。

憐はまた涙を流す。

「う…………あぁぁ………………うあぁぁぁぁぁ……………………!!!」

泣いている憐を見ながら、レンは冷たく言いはなった。

「「お喋りは終わりだ。

僕は、大神に戻らなくちゃいけないんだ。

…………………………死んでくれ」」

固まった憐の体を、

レンは横に切り分けた。

内臓と共に血が飛び交う。

「「不老不死…………
本当に良い願いだね」」

憐が意識を失う直前に見えたのは、

そう言って笑うレンの姿だった。

確かに笑ってる。

でも、憐には見えた。

目から今にもこぼれそうな、

一粒の涙が。

憐はその涙について、理解する暇もなく倒れた。



しばらくして、憐が意識を取り戻す。

その目の前には、レンがいた。

「「やあ、おはよう」」

レンが座りながら、手を小さく振る。

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

驚く憐を無視してレンは話す。

「「2つの体をくっつけるのに約5秒……か。
僕よりは遅いけど、良い速さだね。

さあ、あと80回、死んでくれ」」

そう言ってにっこりと笑ったレンは、また憐の体を切り分けた。

「「君の精神は、どこまで持つのかな?
あっはははははははははははははは!!!」」

憐の頭の中には、そんな言葉が繰り返し、

鳴り響いていた。
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