男狼

鬼ごっこの終わり

男狼 第12話
70回目。

あれから憐が、殺された回数。

「「あと10回だけど、何か言いたいことはあるかい?」」

レンが聞く。

「「あ、先に言っておくと、

あと10回なのな僕だけだからね」」

憐がその言葉に反応する。

「「他の大神も、復活させてもらうよ?」」

そう言ったレンの顔を、

憐は、震えながらも、顔をあげて見た。

「っ!!」

レンは、笑っていた。

喜んでいる。

憐はその表情に、今まで感じたことのない恐怖を感じた。

レンは続ける。

「「そーだね。

少なくてもあと、


1億回

は、死んでね?」」

憐が、震えながらも、残る力を振り絞って叫ぼうとする。

「………………も……」

「「も?」」

「もう、止めて…………くれ。

もう…………もう、もう嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

憐が叫び、逃げ惑う。

「「精神が、もたなかったか…………
まあいい」」

そう言ってレンは追いかける。

教室から飛び出した憐は、

すでに少しずつ冷静さを取り戻しつつあった。

左の階段へと向かい、階段を下がる。

「「そうミスミスと逃がさないよ?」」

階段を下がりきった憐は驚く。

一緒なのだ。

景色が。

教室も、全て同じだ。

確かに下がったはずなのに、

まだ3階にいる。

先程飛び出た教室の前には、

楽しそうに笑うレンの姿があった。

「「やあ、おかえり♪」」

「……くっそ!」

憐は次に、階段を上りはじめた。

「下に行けないなら…………上だ……!」

その様子を見たレンは決める。

今、狩ると。

今が最善のタイミングだと。

そう思い、憐を追う。

全速力でだ。

このままではすぐに追い付かれる。

そう思いながら憐は必死で走る。

「………………!!……何で!?」

憐の前には、壁があった。

4階への道がないのだ。

「「残念だったね」」

憐の後ろには、レンが迫ってきていた。

もう、追い付かれる。

「…………っ!!どうにでも……なれっ!!!」

憐はそのまま走り、壁にぶつかる直前で上空へと跳んだ。

「「……?」」

レンにはその行動が理解できない。

壁蹴り。

憐がおもいっきり目の前の壁を蹴った。

「…………っらぁ!!!」

その勢いで憐はレンの背後へと移動することに成功する。

「っ!うわぁ!!」

憐は、着地を失敗し、一気に階段の下へと転び落ちた。

「ぐあ!」

激痛を感じながらも、憐は走る。

今度は、右の階段へと。

左が行けなくなった。

なら、右は行けるようになったのかもしれない。

そう考え、憐は走り続ける。

憐の予想外の行動に動揺したのか、レンとはまだ距離がある。

憐は階段へとたどり着き、かけ上る。

「…………頼むから、開いててくれよ……?」

小声でそう放つ憐の表情は、真剣だ。

当たり前だ。

これは生死を賭けた賭けなのだから。

憐の額を、冷や汗が撫でる。

階段の終わり、憐は驚く。

「……マジかよ」

通れなくなっていたはずの右の階段から繋がる4階への道が、続いていたのだ。

憐はひとまずの賭けに勝つ。

「「ま…………て……!!!」」

レンが追いかけてくる。

「「まてぇ!!!!!大里 憐!!!!」」

その怒鳴り声と共に、

レンの姿が変わってゆく。

身体中から毛がはえ、

指の爪は伸びて鋭くなった。

さらに鼻先がのび、

口内からは鋭い牙が見える。

やがてそれは、よに言う狼男の姿へと、

変貌した。

恐怖に震えながらも、

憐は4階へと走る。

その時、レンが跳んだ。

そして、憐の真後ろへと着地する。

かなりあったように見えた距離は、

一瞬にしてゼロにされた。


バキッ


その嫌な音と共に、階段が崩壊していく。

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!」」

レンが吠える。

「う、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

憐が4階へと飛び込む。


ドサッ


それは、憐の着地の音。

憐は見事に、4階へとたどり着いたのだ。

「………………!?」

突如、憐の視界が歪む。

その歪みがなくなった頃、

憐は白い空間にいた。

どこまで続いているのか、

それすらも分からない、不思議な空間。

ただ、その中で異彩を放つものがある。

それは憐の前にあった。

憐の前には、

ただ、真っ赤な扉が1つ。

その時、どこからか声が聞こえる。

『そこにある扉を使えば、

男狼から解放されます』

その声はおそらく女性だろう。

そしてその声は、

美しく、綺麗だった。
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