まだ見ぬ春も、君のとなりで笑っていたい
渡り廊下の真ん中にひとり残されたわたしは、ゆっくりと窓の外の空を見上げた。

明るい水色の空。降り注いでくる白い光。

生れたてのような光を全身に浴びていたら、ふいに、もういいかな、という思いが込み上げてきた。

ずっと彼方くんのことが好きだった。一目惚れだった。

最初に出会ったときに助けてもらって、それからずっと、遠くから見つめていた。憧れだった。

でも、今思えば、ちゃんと話したこともなかったし、本当の意味ではどんな人なのか知らなかった。

それでも、遠子と彼が付き合い始めて、ますます好きになっていったような気がする。たぶん、執着というやつだ。

ずっと片想いしていて、それが普通の状態だったから、急に諦めないといけなくなって、頭では分かっていても心が納得できていなかった。

でも、やっと、彼方くんのことを諦められるような気がする。生まれて初めての恋を、わたしはもう充分に味わったな、と素直に思えた。

恋をする喜び、片想いの甘酸っぱさ、失恋の痛み、諦められない苦しさ、どうしようもない嫉妬、そして恋が終わる瞬間。恋の全部を味わい尽くした。

わたしの初恋はこれで終わり。

初恋は実らない、とよく聞くけれど、本当だ。そう考えたら、わたしだけではないんだな、と思えた。世界中の人が、きっと今日も恋に落ちたり、失恋したりしている。

すごくすごく苦しかったけれど、いい恋をしたと、胸を張って言えた。

大きく深呼吸をして、降り注ぐ光を全身で受け止める。

冬の陽射しは、なんて透明で優しいんだろう。

天音に会いたいな、と思った。

今日のことを話したい。そして、お礼を言いたい。


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