まだ見ぬ春も、君のとなりで笑っていたい
お母さんが小言を言いながらリビングに入ったので、わたしも後を追う。

自分の部屋に逃げたかったけれど、そんなことをしたらどうなるか、考えただけで恐ろしい。

「あのね、お母さん別に、怒りたくて怒ってるわけじゃないのよ? 遥のためを思って言ってるの。夢っていいものよ、夢があるだけで人生に張りが出るの。夢がないと生き甲斐もなくて、ただ毎日をやり過ごすだけのつまらない人間になっちゃうのよ。目標がある人はきらきら輝いてるわ、目を見れば分かる。夢がない人の目は曇ってるのよ」

それなら、わたしの目はどんよりと重苦しい灰色をしているだろう。だから、こんなに世界が暗く見えるのだろうか。

「お母さん、夢がない人は嫌いだわ。やりたいことがないって、つまり怠慢でしょ。自分探しを怠って、ただぼーっと生きてきたのが目に見えてる。くだらない人間よ。趣味も目標もない人生なんて、何が楽しくて生きてるか分からないじゃない。そんな貧困な精神の持ち主にはなって欲しくないわね」

お母さんは、わたしみたいな人間は大嫌いってことでしょ。それは分かってる。分かってるから、もう言わないで欲しい。

「お兄ちゃんを見てごらんなさい。小さい頃からしっかりした夢を持って、ちゃんと目標を立てて自分で努力して、どんどん夢に近づいてるのよ。どこに出したって恥ずかしくないわ。遥にもあんなふうになっねほしいのよ、お兄ちゃんを見習いなさい」

お兄ちゃんの話は聞き飽きた。どうせわたしはお兄ちゃんの妹とは思えないだめな人間だ。

でも、どうして家に帰ってきてまで、毎日こんなに居心地の悪い思いしないといけないの。ああもう、嫌だ……。

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