まだ見ぬ春も、君のとなりで笑っていたい



「失礼します、広瀬です」

進路指導室のドアをノックして名乗ると、中から「入れ」と聞こえてきた。

もう一度、失礼します、と声をかけながらドアを開く。

部屋の真ん中に置かれたテーブルセットに、進路担当の小林先生が腕組みをして腰かけていた。

その威圧感に、いつものことながら背筋がぴりりとするような緊張感を覚える。それはやっぱり、自分にやましいところがあるからなのかもしれない。

ここに来るのは、もう何度目だろうか。進路希望票にいつもあいまいなことしか書けない私は、相当な問題児と思われているのか、たびたび担任や進路担当に個別面談で呼び出されていた。今日も朝礼で『放課後、進路指導室に来るように』と書かれたメモを渡され、ため息をつきたい気分を抑えながら終礼後すぐに足を運んでいる。

「そこ、座れ」
「はい……」

わたしはうつむきながら先生の向かいに腰をおろす。

小林先生は剣道部の顧問をしている数学の先生で、厳しくて怖いと有名だ。その先生と一対一で向かい合うというだけでも緊張するのに、しかも進路の話となると、自然とうなだれてしまう。

「で、この前の面談から一ヶ月経ったけど、どうだ、ちゃんと考えてきたか。何かやりたいこと見つかったか」
「……すみません。まだ……」

 一ヶ月やそこらで見つかるわけないじゃないですか、と言いたい気持ちを黙って圧し殺す。

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