まだ見ぬ春も、君のとなりで笑っていたい
すると彼はゆったりと首をかしげて、唐突に地面に座り込んだ。

なにをしているのだろう、と見ていると、彼は近くに落ちていた小石を手に取った。

その石を使って、地面になにかを書きはじめる。

私は思わず身を乗り出してその手もとを覗きこんだ。

なにか絵を描いているのかと思ったけれど、予想とはちがって、彼は文字を書いていた。

『春花』

と書かれていた。

繊細で几帳面そうな、男の子にしてはとても綺麗な字。

それに目を落としたわたしは、春の花? と心の中で首を傾げたけれど、すぐに、『はるか』と読むのだと分かった。

顔をあげて見ると、彼は反応を窺うような視線をわたしに向けている。

どうやら、わたしの名前の漢字を確かめようとしているのだと気づいて、わたしは首を横に振った。

< 28 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop