まだ見ぬ春も、君のとなりで笑っていたい
さっきまでのわくわくした気持ちが嘘のように、心の奥底から冷えきっていく。

理由も聞かずに叩くなんて、ひどい。わたしはもう小さい子どもじゃない、ちゃんと言葉で話せる。

それなのに、なんでいきなり手を出すの? 子どものこと、自分の思い通りになるお人形とでも思ってるの?

言いたいことはたくさんあったけれど、怒り狂うお母さんを見ていたら、言葉が喉につかえて一言も出て来なかった。

「……別に、遊んでたわけじゃないもん。たまたま帰りに知り合いと会ったから、話してただけ……」

学校で友達と話をしていると、親と怒鳴りあったとか、大喧嘩をしたとか聞くことがある。でも、わたしは一度もお母さんに大声で反論できたことがない。

普段は何も言い返さずにお母さんの言うことを聞いているし、どうしても言い返したくなったときも、ただ独り言みたいな声で小さく言い訳をするだけ。

今だってそうだ。お母さんの顔を直視して言いたいことをぶつけるなんてできなくて、目を背けたままぼそぼそと反論することしかできない。

「人のせいにするんじゃないの! 遅くなるなら遅くなるで連絡くらいできるでしょ。それに、こんな時間に出歩いてるなんて、ろくな子じゃないでしょ。友達なんかやめなさい!」

いつもこうだ。お母さんは、わたしが口を挟む隙間もないくらい、次々に激しい言葉をぶつけてくる。

きっと子どもは自分の言うことを聞くだけの人形だと思っているから、わたしの意見なんか聞く気もないのだ。

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