まだ見ぬ春も、君のとなりで笑っていたい
お母さんは、お父さんと結婚する前から化粧品店の店長をしていて、お兄ちゃんとわたしを生んだ後もすぐに職場復帰してずっと働き続けている。わたしはよく分からないけれど、かなりやり手と言われているらしい。店の売り上げを全国一位にするのが目標だとよく言っている。

お母さんが言うには、化粧品の仕事は自分の天職であり、この仕事をしていない自分は自分ではない、と思うほど生き甲斐になっているという。お母さんは、夢中になれる仕事に出会えて、優秀な成績を収めている自分が自慢なのだ。

それはいいけれど、それをわたしにまで押し付けてくるのは困る。わたしだって、好きで夢を見つけられずにいるわけじゃないのに。

「このままじゃ遥、お父さんみたいに無気力な会社員になっちゃうわよ。夢も目標もなくただ目の前の仕事をこなすだけ、みたいな。それでいいの? あなただって、そんなの嫌でしょ?」

わたしはお父さんが好きだ。お母さんが嫌いな『普通のサラリーマン』だけれど、優しいし子どもの話を聞いてくれる。お母さんみたいに子どもを自分の思い通りにしようなんて思わずに、一人の人間として尊重してくれている。

そんな優しいお父さんを、自分で選んで結婚したくせに、なんで文句や悪口ばっかり言うんだろう。不満に思うけれど、わたしは何も言わずにうつむくことしかできない。

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