過去ポスト
そこに夏はいないと知っているのに、その名前を呼ばずにはいられなかった。


「夏! 夏!」


あたしは声を張り上げながらペダルをこぎ、砂浜の入り口で自転車を下りた。


鍵もかけずそのまま横倒しにし、砂浜へと走った。


砂に足がもつれて何度もこけそうになりながら、夏の姿を探す。


太陽はかろうじてまだ海を照らしてくれている。


今の内に夏を探さないといけない。


そんな気持ちになっていた。


「夏! 夏! どこにいるの!?」


いるはずのない夏を探して大きな声を上げる。


『サユに伝えたい事があるんだ』


そんな、夏の声が思い出された。


「あたしに伝えたいことって……なに?」


いない夏に聞く。


聞こえてくるのは静かな波の音だけで、あたしの言葉に返事をしてくれる人はいない。
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