過去ポスト
一瞬、この場から逃げ出したい気持ちになる。


聞きたくない。


聞かない方がいい。


それなのに、あたしは階段を一段、また一段と下りて行っていた。


友太さんが気まずそうな表情を浮かべ、頭をかいている。


その仕草にハッと目を見開いた。


友太さんに初めて会った時から、あたしは友太さんへの警戒心を抱いていなかった。


初対面なのにどうしてこんなに心が穏やかなんだろうと、自分でもとても不思議だったのを今でも覚えている。


その理由が、今のその仕草でわかった気がした。


困った時に頭をかく仕草は、夏のクセだったのだ。


それだけじゃない、雰囲気が夏にそっくりじゃないか。


どうして今まで気が付かなかったんだろう。


「友太さん、どうして夏の事を知ってるの?」


階段を下りきったあたしはそう訊ねた。


友太さんはサオお姉ちゃんの視線を向ける。
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