過去ポスト
どんどん沖へ向かうと次第に足が付かなくなってくる。


頭までスッポリと海水につかってしまった時、あたしはゆっくりと目を閉じた。


まるでお母さんのお腹の中にいるような感覚だった。


とても暖かくて優しくて。


波にたゆたう自分は赤ちゃんに戻るのだと感じた。


体内に残っていた空気が口から吐き出されていく。


ゴボゴボというくぐもった音を聞きながら、あたしは全身の力を抜いた。


このままどこまでも流されて、そしてたどり着いた先には夏がいるんだ。


そう思うととても嬉しくて……。


真っ暗な世界に引き込まれていくときも、恐怖なんて少しも感じられなかったのだった……。
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