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夏波は携帯を握り締め固まっていた。


恭平に誤解されたのではないか…
いや、悪いのは恭平だ。
少しくらい心配させてやればいい。
頭の中でさまざまな思考が暴れ出していた。



「ほい」
考え込む夏波の目の前に紙コップが差し出された。
それと同時にコーヒーの良い香りが夏波の鼻をくすぐる。
「あ…ありがと…」
夏波は素直に差し出された紙コップを受け取り、男の顔見た。
「今度はむせるなよー」
そう言ってニヤリと笑い、自分のコーヒーを口に運んだ。


不思議な男だと思った。先程からすべて彼のペースで事が進んでいる。
何とは明確に言えないが、この男には人を引き付ける魅力があると夏波は思った。
はっきりとは見えないものの、整った顔立ちであることも間違いない。
現に彼が笑うと夏波の心臓は少なからず心拍数を上げていたのだ。


ぼーっと男の顔を見てそんなことを考えていると、男は紙コップから口を放して夏波を見た。


「なぁ、なつはって、どういう字書くの?珍しいよな」
「…夏の波…」 
「へぇ…また随分キレイな名前もらったんだな…………名前負けしてねぇ…?」
上から下まで舐めるように見ながら男はそう言った。
「んなっ?!なんであなたにそんなこと言われなきゃなんないの?!信じられないっ!!最っ低!!」
思いがけない男の発言に夏波は声を荒げた。

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