学園の通り魔
「そうか…私、肝心なことを忘れてたよ。あの子が、片城証だってことに」

「は?どういう…」

「ごめん、緒方に悪気はなかったんだろうってことはわかったよ。でも、証はあんたのしたことに、確実に傷付いた」

 硝子は慎重に言葉を探しているようだった。それが何となく伝わってきて、だから俺は、次の言葉を待つことにした。

 だけど、硝子が次に選んだ言葉は、一見今の状況とは何の関係もないようなものだった。

「この高校、私の中学校の出身は私と証だけなの。遠いし、偏差値もまあまあでしょ?だからみんな、他に行ってさ」

 遠い…って、硝子の家の場所がわからないから何とも言えないけど。

「高校でも証は浮いてるけど、中学はもっと酷かった。
 誰とも遊ばない、誰とも話さない、誰とも目を合わせようとしない。

 だから、誰も目を合わせようとしなくなった」

「うん」

「でもこれには理由があるって知った。
 私だけは、証に何度も話しかけたから。

 そのうち少しずつ仲良くなって、ほんの少しだけど、心を開いてくれた気がしたんだよね。

 でもそれは私の勘違いに過ぎなかった」

 予鈴が鳴った。

 タイミングが悪いな。

 硝子は諦めた顔で『戻ろっか』と言った。時間にきっちりしてる辺り、学級会長って感じがする。

「続き、聞きたい?」

 いたずらっ子の顔を作って、硝子が言った。
 何を当然な質問を。
「うん」
「じゃあ、放課後玄関で」
「わかった」

 階段を一段一段降りながら、ふと思い出す。そう言えば、弁当、まだ続きだった。

 午後の授業にも、証は顔を見せなかった。
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