学園の通り魔
 放課後、生徒玄関の外で10分くらい待つと、硝子が走ってやって来た。
「早いね」

 髪が少し乱れた硝子は、鍛え抜かれたスポーツ選手のように、きらきら美しかった。

『竜崎硝子、略してリューショー。カッコいいだろ』と、郷平が言っていたこともわかる気がする。

 外履きに履き替えた硝子は、爪先を地面にトントン、と2回叩きつけて、俺のもとへ歩いて来る。

「緒方、電車?」
「うん」
「オッケー、私も電車」
 硝子そう言って、勝手に駅に向かって歩き出した。
 慌ててその後について行く。

「緒方って、部活もう決めたの?」
 フェンス越しに野球部のランニングを眺めながら、硝子が急な質問をしてきた。

「いや」

「早く決めないと、生徒会送りにされるよ」

 生徒会の仕事は裏方や雑用。すすんで入るやつは内申目当てのバカとかで、珍しい。

 なんでもできそうな硝子でもやはり、生徒会は敬遠したいものなのだろうか。
 もちろん俺も生徒会はごめんなので、何か部活に入りたいところなのだ。

 その場でメジャーな部活動を一通り思い浮かべ、適当に選んでみた。
「陸上部とか、かな」

「ほんとに?陸上部なんて、走るだけじゃん。生き地獄だよ」

 硝子は大袈裟なくらいに驚いてみせた。

「走るだけだからいいんだよ。何もいらないし、頭も使わないし、ほら、よく言うじゃん。『シンプルイズベスト』ってさ」
 硝子が『バカじゃん』という目を俺に向ける。容赦ないな。

 というかそれ、陸上部に対する偏見じゃあないか。とは言え俺も、『陸上部なんて走るだけ』となめてかかってはいるけども。

「硝子は、部活もう決めた?」
「とーぜん。バレー部」

『その質問、待ってました』と言わんばかりに胸を張って、硝子が答えた。
 うちのバレー部は県ナンバーワンだという噂は聞いている。

 もしかして硝子って、バレーボール強いんじゃないだろうか。

 特に意味はなかったようで、部活の話は自然と終了した。そう、俺たちはこの話をするために下校を共にするわけではないのだ。

 本題に入る前特有の、妙な静けさと緊張感が、俺の肩に重くのしかかる。

 はみ出した髪を耳にかけ直して、硝子はゆっくり、口を開いた。

「証は多分、本当はわんぱくって感じの子だよ」

「え?」

「中学校で私が見ていた限りでは、なんだけど。…証って、ずっと独りぼっちで、かわいそうな子なんだよ。

 自分で壁を作っておきながら、時々凄く羨ましそうに壁の向こう側を見てる…なんだかそんな感じがする」

 俺には、硝子の言っている意味がよくわからなかった。

 羨む?壁の向こう側…俺たちのことを…?
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