豹変カレシのあまあまな暴走が止まりませんっ!
夕べ。彼がこんなようなことを話の途中に織り交ぜたんだ。


『お前は本当に情けないやつだな。仕方がないから俺が引き取ってやる』
『ん? 引き取るって、何?』
『身元引受人』
『……保護者ってこと?』
『恋人、ってことだ』
『へ?』


おかしいなぁ、ちゃんと『恋人』って聞こえた気がするんだけれど。聞き間違いだったのかなぁ。

だって、私と玲の間に、ロマンチックな情事なんてなにひとつない。起こりそうな気配すらない。

『好き』とか『愛してる』の類の言葉を聞いたこともないし、だいたい、どうして完璧で几帳面な彼が、『ぶちゃ』でズボラな私と付き合おうとするのか、全く理解できない。

本当に付き合う気、あんのかな?

斜め上にある彼の横顔を拝見。
むすっとしている。恋人と一緒のときにする顔とは思えない。

やっぱり、聞き間違いだったのかも。


歩く速度を緩めて、玲の三歩後ろを歩く。
うん。やっぱり、後ろ姿は文句なく素敵。
お願いだから、そのまま後ろを向いていて。
毒しか吐けないその唇は、しまっておいて。


って思ってるそばから振り向く彼。

「トロトロ歩くなと言っているだろ」

そう言って彼は荷物を全部片手に寄せ集めて、開いた手のひらを私の右手へ伸ばす。

きゅっ、と。

手のひらと手のひらが隙間なく重なって、そんな音が聞こえた気がした。

「へ?」

不意打ちにどきり。目を大きくして見上げると、そこには蔑むような冷徹な瞳があった。

「本来であれば、リードでもつけて歩きたいくらいだ」

リード? ああ、あれね、犬の散歩のときに付ける紐。
つまりこれは、犬のお散歩と同レベル? 私って、犬カウント。

「……わんわん」
「吠えなくていい」
「すみません」

やっぱりこれって恋人の扱いじゃないよね。
< 5 / 59 >

この作品をシェア

pagetop