豹変カレシのあまあまな暴走が止まりませんっ!
地下鉄に乗って十五分。さらに駅から歩くこと十五分。
少々年季が入った外観の単身向け賃貸マンション、その二〇三号室が私の部屋。

「昨日は玲がご飯作ったから、今日は私の番だよね」
「ああ。五十分後に行く」

ぶっきらぼうにそう告げて、玲はマンションの隣の部屋、二〇二号室へと入って行った。
これからご飯を作らなければならないってことに、ちょっとだけ面倒くさくなった私は、ため息交じりに自分の部屋へと入る。

実家だけじゃない。
東京の家ですら、私たちは隣同士である。

好き好んでそうした訳ではない。気が付いたら、親が勝手に決めてたのだ。


私たちが長野から東京へ上京することになって、騒いだのは親たちの方だった。
見知らぬ土地へ我が子を一人で送り出すのだ、まぁ、心配なのはわからなくもない。

そこで親たちが下した決断は、娘息子たちを隣に住まわせること。

『玲くんが隣なら、比奈も心強いでしょう?』
『比奈ちゃんが隣なら、玲も安心だわ』

気が付いたらもう、決まってたんだよ、東京の家が。
ちゃんと私と玲の就職先の真ん中の、程よい位置に。
それにはさすがに、私も玲も驚いたよ。



私は部屋に入ってラフな部屋着に着替えると、いそいそと台所に立った。

土日の夜は、用事がない限りは一緒に食事をするという暗黙の了解ができている。
食費と食事を作る時間の節約のため、だそうだ。

調理は当番制、今日は私の番。
メニューは何にしよう。何か簡単なものがいいなぁ。

冷蔵庫を開けて、切るのが簡単そうな野菜を見繕って、適当にスープを作った。
それから、冷凍庫のお魚をレンジで解凍して、グリルに突っ込む。
あとは、出来合いのひじきの煮物の封をぺりっと開けて、お皿に盛って出来上がり。

はぁ。玲が夕食を食べに来る前に、なんとか準備が整った。

カーペットの上に座り込み、一息。
が、はたと気付く。

あ。ご飯炊くの、忘れてた。
< 6 / 59 >

この作品をシェア

pagetop