雨宿りの法則
それは脆くも崩れ去る。
白衣から私服へ着替え、きつく縛っていた髪の毛を下ろし、手ぐしで簡単にならしてから部屋を出る。
その後ろからドアが開き、まだ着替え途中の真美ちゃんから声をかけられる。
「森田さん、傘持ってますか?少し雨降ってきたみたいですよ」
「あ、そうなんだ。小雨なのかな?」
「さっき自動ドア締める時には、そんなに強くなかったですけど」
「分かった、ありがとう」
バッグの中に小型の折りたたみ傘を持ち歩いているので、小雨程度なら対応できそうなので戻らずに笑顔だけを返した。
真美ちゃんもそれを悟ったらしく「お疲れ様でした!」と元気よく挨拶してドアを閉めた。
彼女はなんというか、若さ溢れる明るさがあっていいな。
恋人にするなら可愛らしくて元気な彼女のような人がいいという男性は多そうだ。
あの子のような可愛さがあったなら、私もさっさと結婚して仕事なんか辞めていたのだろうか。
根暗っぽい自分の性格を恨みつつ、従業員用の通用口から外へ出た。
真美ちゃんが言っていた通り、外は確かに雨が降っていた。霧雨よりは雨量が少なく、でも少し粒はある模様。
駅のバス停まで歩いて15分。さすがにずっと傘も差さずに歩いたら駅に着いた頃には濡れていそうなので、折りたたみ傘を出すことにした。
辺りはすっかり暗くなっていて、歩道に並ぶ外灯の下まで少し歩いて立ち止まり、バッグの中をゴソゴソ探す。
すると、下を向いていた私の上に何かが覆いかぶさってきた。
慌てて顔を上げると、黒い傘。その傘を持つ人が、にこっと微笑んだ。
「お久しぶりです、響さん」
それは紛れもなく、数日前に再会を果たした彼、敬佑くんだった。
やっぱり、いつもの日常はもう戻ってなどこない。
彼に再び出会ってしまったのだから。