雨宿りの法則
ファミレスの駐車場に、屋根は無かった。おかげで店内に入った時には少し濡れてしまっていた。
お店に入ってすぐの所に設置されている傘置き場にはたくさんの傘が詰め込まれるように置かれていて、ここに滞在しているお客さんはみんな傘を持ってきていることがうかがえた。
「響さん、また傘忘れたんですか?」
濡れたまま現れた私に、敬佑くんは半ば呆れ顔でそう言葉をかけてきた。「また」というあたりが何度も会っている証拠。
そして、彼と会う日は決まってほとんど雨模様なのだ。もしかして彼も雨男なんじゃないかと思うくらい。
「もう私の脳は老化が始まってるの」
「言うほど歳とってないくせに何言ってるんだか」
「10代の未成年に言われたくないわよ」
慣れたせいで、憎まれ口や冗談を言い合うのは普通になってきた。私は異性の友達が多い方ではないので、男の子とこんな風に面白おかしく会話できるのは貴重だと感じていた。
意識しないで話せる相手というのは、心地がいいものだ。
彼が年下だから話しやすいのか、ただ単に相性がいいからなのか、心地よさの要因は謎のまま。
適当にお互いに食事をオーダーして、一息ついた頃に敬佑くんはこれといった前置きもせずに切り出してきた。
「落ち込んでる時に呼び出したりしてすみませんでした」
「……落ち込んでないから平気」
「内容を詮索するつもりはないんですが」
「なに?」
「そういう気分の時に寄り添ってくれる恋人とかいないんですか?」
なに急に。
確かに内容は詮索してないけれど、唐突な質問に面食らう。
まさか独り身の私が可哀想だとでも思ったとか?
思わずため息が漏れた。
「恋愛してる暇なんて無いわよ。なるほど、同情して誘ってくれたってわけね」
「というか、相手がいないなら俺がそばにいようと思って」
彼はニコッと微笑んで、「はぁ?」と眉を寄せる私を楽しげに眺めていた。