雨宿りの法則
4 神様がいるのなら、


人に甘えるということがどういうことなのか、今まで生きてきて考えもしなかった。媚を売ってるみたいで好きじゃなかった。

そういうドライな考え方だったから、学生時代に付き合った人からは「可愛げがない」とか「冷たい女」とか、色々言われた。

だけど、それが私なんだと思っていた。思っていたから、ずっと貫き通してきたんだ。


「響さんは、意識改革しないとダメですね」


と、あの雨の夜に敬佑くんに言われた。
彼に傘の中で抱きしめられたあの夜のことだ。
意識改革?と聞き返すと、彼はうなずいたのだ。


「そう。悲しい時は誰かに甘えてもいいんだっていう意識改革」


私はあの時、どうして彼の腕の中で泣いたのだろうか。
1人で好きなだけ泣く方がいいと思っていつもそうしてきたけれど、それは間違っていたのだろうか。


彼に出会ったことで、私の中で何かが確実に変わった。
ルーチンワークみたいになっていた堂々巡りの仕事への気持ちも、彼と過ごす時間が癒しになっていることも、これまでの私には無かったことだった。

無の世界からフツフツと溢れる新しい気持ちに、心が追いつかないでいた。


「意識改革……か」


衝動に任せて誰かを頼り、そして甘えるようにすがり、そばにいてもらうことが正解だなんて思えなくて。こんな考え方をするようになった自分の性格が、悪いとも思っていない。

ドラマや小説なんかでは、家庭に事情があってこんなひねくれた性格になったとか描かれそうなものだけれど、残念ながら私はそうではない。
ごくごく一般家庭で、普通に両親に愛されて普通に育ってきた。

普通の女なのだ。

これといった事情とか理由なんて、どこも存在しない。
単に私の心が弱いだけ。
人の死に向き合えなくなるのが怖いだけ。

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