雨宿りの法則
「運命の再会ってやつなんじゃないの?また会いに来てくれてるってことは、そういうことでしょ?」
「私もそう思います!」
「そんなロマンチックなものじゃないです!」
雪子さんたちの押せ押せムードに負けじと声を上げて言い返した。
私が声を張り上げるなんてこと、おそらく滅多になかったと思う。だから、2人はとても驚いた顔で目を丸くしていた。
だって本当のことなのだ。
本当に本当に、ロマンチックなものではないのだ。
ただただ私が彼から逃げただけの、苦い思い出なのだ。
それを「運命」だなんて言葉で片付けてしまっては、彼に申し訳ない。
「私は……彼を傷つけてしまったんです。逃げてしまったんです。本来は、会う資格なんて無いんです」
そう、会う資格など無い。
だから今から会うのも、本当は良くないことなのだ。どうせきっと、また彼から逃げてしまうのだから。
過去と同じことを繰り返すだけなのだから。
鬱々とした頭でそんなことを思っていると、雪子さんがバッサリと一蹴した。
「ほんっとにバカねぇ」
「え?」
思わぬ言葉をかけられたので、なんとなく拍子抜けして顔を上げると、何かを悟ったような真美ちゃんと、その横で雪子さんが高らかに笑っていた。
「それでも彼は来てくれてるじゃないの。会う資格を与えてくれてるじゃない。それって彼からしてもすごく勇気がいるし、きっと色々な葛藤と決心があったはずよ。そろそろ向き合いなさい、響ちゃん」
彼女たちには詳しいことなど何ひとつ話していない。
プロポーズされたことがあるということだけしか話していないはずなのに、この2人に全て見透かされているのはどうしてなのだろう?
私はそんなに分かりやすい顔をしていたのかな。
そして、雪子さんに言われて初めて敬佑くんの気持ちを考えた。
葛藤して、決心して、勇気を出して来てくれたのだ。
今回だけじゃない。きっとこの間、仕事が終わるのを待っていてくれた時も。そして、4年前も。
なぜそれに気づかなかったのだろう。
気づけなかったのだろう。
答えは簡単だ。彼の気持ちを知ろうともしなかったからだ。
だから、もう、逃げちゃダメ。