雨宿りの法則
「また、雨」
え?と敬佑くんに聞き返された。
彼の車に乗り、助手席から窓の外を眺めながら私はつぶやくように言った。
「いつも、雨。何かにつけて、雨。私はいっつも雨がついて回る」
「俺は雨の音、落ち着くから好きだけどなぁ」
穏やかな声で、彼は正面を見つめたまま微笑んだ。その横顔を見ると、どこかホッとする。
ついこの間も乗せてもらった助手席で彼の横顔を見た時は、昔と変わらない、そういう感想を抱いた。
だけど、やっぱりあの頃とは違っていた。
あの頃に感じたあどけなさは、もうどこにも無かった。
変わらないのは、彼の目だ。
雨が好きというのには似つかわしくないほどの、青空みたいに澄み切った綺麗な瞳。
それはあの頃のまま。
だけどちゃんと、大人になっていた。
その彼の目が、私に向けられる。
信号待ちの、停車する車の中で。
「この会話、出会った時にもしましたよね。覚えてます?」
「………………え?」
「その顔は覚えてませんね」
「いや、あの、ううん。覚えてるよ」
「そうかな。忘れてたって顔してますよ」
忘れるわけがない。
だって私が雨女であることを迷いもなく肯定し、好きだと言ってくれたあの瞬間のことは、忘れられるはずがなかった。
ただ、敬佑くんが覚えていたということに驚いていたのだ。
嬉しかった。
「雨が降ると、もしかしたら響さんに会えるんじゃないかって。会えなくなってからしばらくは期待してました」
ワイパーが作動する規則的な音を聞きながら、敬佑くんがどこか懐かしそうに笑った。もう私の方は見ておらず、視線は前方へと移っている。
そうして彼の言葉で思い知らされる。
私はやっぱり、彼を傷つけていたのだと。