雨宿りの法則


なんと返せばいいのか言葉を探していると、敬佑くんは駅前まで車を走らせたあたりで


「温かいものでも食べましょうなんて言いましたけど、何がいいですか?」


と、やや困ったように通り沿いに立ち並ぶ飲食店に目を配る。
こういうところは、変わってない。
自分よりも相手、困っていたら手を差し伸べて優しくする、そういうところは何も変わりない。

だからあの日、車から変な音がするからと困っていたのが私じゃなくても、彼はきっと声をかけていただろう。


「なんでもいい……って言ったらもっと困るよね」

「うーん、そうですね」

「普段あまり外食しないから、なんでも食べたい気分なんだけどなぁ。敬佑くんは普段どこで外食するの?」

「俺は……、ラーメン屋とかうどん屋とか、定食屋とか……。色気のないところばかりです」

「ふふ、色気って」


思わず吹き出してしまうと、敬佑くんは恥ずかしそうにはにかんだ。そして、ぼそぼそと言い訳をする。


「仕事帰りにパパッと寄れるところが楽なんです」

「なるほどね」


まだ笑いの余韻が残りつつも、緊張していた心が少し解れていくのが分かった。体の内側から、ほんのりと暖かくなる。
彼は本当に不思議な人だ。


結局、色々バリエーションが揃っているからということで、彼の行きつけの定食屋に行ってみようということになった。
静かなお店よりは、賑やかな方が私も気負わなくていい。定食屋なんかはピッタリだも思ったのだ。

今日は、逃げない。
それだけを胸に決めて、雨に濡れた街を眺めた。




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