雨宿りの法則
6 雨の日でも、晴れの日でも。
定食屋をあとにした私たちは、敬佑くんの車に乗り込んだ。
この後はどこに行こう、という話は具体的にはしていなかったけれど、彼は何かを言うわけでもなく車を走らせる。
私も別にそれを咎めることはなかった。
たぶん、もう少し一緒にいたかったんだと思う。
流れていく街の明かりを横目に、止みそうにない雨の音が閉め切った車内に響き渡る。
路面が濡れて、ネオンに照らされて海ホタルみたいに見えた。
やがてどこかのコインパーキングへと車を停めた敬佑くんは、運転席を降りると私が座る助手席のドアを開けた。
まるで、どうぞ降りて下さいとばかりに。
なんとなく見覚えのある景色に記憶の糸を手繰り寄せながら、促されるままに降車した。
まだ雨は降っている。
バッグから折りたたみ傘を出そうとしたら、その手を彼が引いた。
「傘はいらないよ。走りましょう」
「えっ?は、走る?」
何を言ってるのだろう、と思っているうちにやや強引に手を引かれ、そのまま一緒に駆け出す形になった。
そうして彼についていくうちに、ここがどこなのか思い出した。
4年前、私が彼を突き放した公園だ。
彼からプロポーズを受けた場所。そして、私が逃げ出した場所。
どうしてこんな所に、と前を行く彼の表情をうかがうけれど、私からは見えない。
あの時、私たちがやり取りしたベンチを通り抜けて、ブランコや滑り台などの遊具も通り抜けて。
気がついたら四阿のような場所へ辿り着いていた。
「こんな所があったのね……」
すっかり濡れてしまった髪の毛や服をタオルハンカチで軽く拭きながらつぶやくと、彼は満足げにうなずいた。
「響さん、知らなかったでしょ。4年前も、ここで待っていれば濡れることもなかったんですよ」
「………………そうね」
私は深くは掘り下げることなく、持っていたハンカチを彼にも差し出した。受け取った彼も、肩のあたりについた雨雫を払うようにして拭う。
公園のぼんやりとした灯りしかない、ほぼ暗闇と言っていいほどのこの場所で、私たちは一体何をしているのだろう。
四阿には3人くらいなら並んで座れそうな長方形の木製の長椅子と、スノコで作ったみたいな簡易的なテーブルまであった。
天気のいい日はここでお弁当なんか食べてる人もいるかもしれない。
その長椅子に、私と敬佑くんは並んで座った。