雨宿りの法則
「4年前にこの公園で響さんと会話したこと、いまだにずっと忘れられずにいました」
おもむろに話し出した敬佑くんは、公園の遊具を見るでもなくどこか遠くへ視線を向けていて、私はそんな彼の横顔を見つめた。4年前を思い出すように、懐かしむように、少し目を細める彼の横顔を。
そして、雨が降るたびに彼を思い浮かべていた今までの自分がぼんやりと照らし出されるような感覚になった。
「あの時、もっと違う言葉をかけていたら。あの時、何も言わずにいた方が良かったのか。あの時、プロポーズなんかしなければ。色々なことを考えて、いや、あの時の俺にはあれしか出来なかったと言い聞かせたりして」
「……ごめんなさい。4年も苦しめてしまったのね」
「違います!誤解しないでください」
頭を下げた私に、彼は慌てて首を振って否定した。
「結局、俺の力だけではどうにも出来ないことだったんだって気づいたんです。だってあの時、俺は未成年で学生で、言うなれば口先だけの男だったんですから。将来を預ける気にもなれないですよ、普通は」
「そんなことなかったよ」
そんなことは、決してなかった。
彼はたしかにあの頃の私にとって、大切な人だった。
気づくのが遅かったけれど。気づこうとしなかったという方が正しいのかもしれない。
彼を突き放して逃げて私の中には後悔と罪悪感が残り、そして、もう会えないんだという寂しさも感じた。
だけどあの時の私に出来ることは、何もなかったのだ。
彼に私を背負わせることは重荷以外のなにものでもなかったと、今でもそれはハッキリ言える。
うまく言えないけれど、後悔はしたけれど、そのことを後悔はしていなかった。
それなのに、また会ってしまうなんて。
伝えられていなかった気持ちを、伝えるのは今なのかもしれない。
「前の職場を辞める勇気をくれたのは敬佑くんだから。感謝してる。あなたに出会わなければ、きっと私は今も苦しんでたと思うし」
「じゃあ、今は?」
「今?」
「俺とまた会うことになって、困らせてませんか?迷惑かけてませんか?」
どこかを眺めていたはずの彼の瞳が、私に向けられていることが分かった。
真っ直ぐすぎるくらいの視線が、私の心をとらえる。
胸が苦しくなる。