雨宿りの法則
私よりも、敬佑くんに迷惑がかかってるんじゃないか、困らせてるんじゃないかという方が強かったのに。
この人はどこまでも優しい。
「…………ふふ、安心した」
「え?安心?」
変なところで笑みをこぼしたせいか、彼は目を丸くしていた。
「だって敬佑くん、全然変わってない。見た目は大人になったけど、中身は変わってないから、……ちょっと嬉しい」
「今なら、付き合ってくれますか?」
「━━━━━えっ!?」
思わぬ台詞に驚き、聞き返す以上の言葉が出てこない。
唐突に告げられた彼のその一時は、一瞬にして私の動揺を誘った。
「俺はあの時と気持ちは変わってないです。今すぐになんていう無茶は、もちろん言わないです。いつかは……いつか結婚できたらって思ってます」
早口で言い切った敬佑くんは、その後すぐにハッとしたように我に返り
「こういうことを言うから、困らせてしまうんですよね……。本当に俺って学習能力ないな」
とポリポリ頭をかいた。
その仕草がなんとなく可愛くて、私はまた笑ってしまった。
嬉しくてたまらないなんて、こんな感情を味わえることにこの上ない喜びを感じる。
もう逃げる必要なんてどこにもなくて、自分の気持ちを隠す理由もないんだと。
「こんな暗くて厄介なオバさん、恋人にして後悔しない?」
「……しないですよ」
「若くて可愛い子が言い寄ってくるかもよ」
「4年間、連絡も取れない人のことを思い続けてきた俺の重さを考えたら、他人なんかどうだっていいです」
「………………ありがとう」
こんな私でも、誰かにとって必要なのだ。
私が彼を密かにずっと思い続けていたように、彼もまた。
4年前はうるさくてうざったいと思っていた雨の音が、今はただただ心地いい。心地よくて、澄んでるみたいに響き渡ってくる。
こんな感覚は初めてだった。