奪いとれっ!!
「振られるのが分かってたから....」

遼はそこで口をつぐんだ。


「それであんなことしたんですか?
あれでは瑠理香の心に傷を残すじゃないですか」


「好きだったんだよっ!どうしようもないくらいっ!」


遼の声が虚しく応接室に響いた。


と、ガチャ。


不意にドアが開くと、遼の父親。性格には堅斗にとっても父親である岩清水建設の社長が姿を現した。


「今回のことは本当に申し訳ない。このバカが犯罪まがいのことをやらかして」


「それは俺じゃなくって、瑠理香に言って下さい」

犯罪まがいじゃなくて、立派にはんざいだけどな。
堅斗は思ったが、あえて口にはしなかった。


「ああ、もちろんだ。改めて北畠さんの家に謝りに行くつもりだ」


申し訳なさそうな表情で父親が言う。


「実はな.....北畠さんとは親しくしていてな、子供が大きくなったらお互い結婚させよう。なんて話をよくしていたんだよ。恐らくあちらもそのつもりでいるだろうし、遼も当然結婚すると思っていたんだよ」


「......お父さん.....」

堅斗はためらいがちに言った。



「それはおじいさんと同じことをしようとしたんですか?」


「いや.....瑠理香さんも遼との結婚を望んでいると聞いていたので....すまない」


再び頭を下げる。

堅斗は小さくため息をついた。


「お父さん.....あなたは母さんを愛していましたか?」


「私は.....会社を大きくすることと、お前のお母さんの愛を天秤にかけて、前者をとったのだ。愛していても、どうにもならないこともある」


父親は記憶をたどるように続けた。


「彼女は私の結婚式の前日に突然姿を消してしまった。探偵を雇い見つけた時に、お前は中学生になっていた」


「.....そうですか」


堅斗は母の想いを痛いほど感じていた。


母は父の幸せを邪魔しないために姿を消したのだと。


人の記憶は......どんなに愛した人でもそばにいなければ、いつしか忘れていく。


恐らく父親も新しい奥さんに子供.....母への愛情よりそっちが大切になっていったに違いない。


これは仕方のないことだし、当然だ....。


と、堅斗は思った。
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