きっと、君だけは愛せない
しばらく二人で空を見ていた。

すると、雲がじわじわとオレンジ色に染まってきた。


「あ。夕焼け」

「ほんとだ」


雲間から鮮やかな西日が射してきて、その光はまっすぐにここまで届く。

窓ガラスが夕陽に染められ、全面についていた小さな水滴が、一つひとつオレンジ色に輝いた。


きれいだね、と言おうとして、横に顔を向ける。

でも、夕焼けの色に縁取られて微笑むケイの横顔を見たら、言葉が出なくなってしまった。


目を奪われたようにしばらく見つめていると、ケイが「そろそろ出るか」と言ってこちらを向いた。

さりげなく目をそらし、「そうだね」と答える。

これからイタリアンレストランで夕食を食べる約束をしていた。


少し残っていたコーヒーを飲み干し、会計をすませて店を出ると、空はもう夕焼けの時を終え、街は夜の色を帯びていた。

ぱらぱらと雨が降っていた。


「なんだ、一瞬やんだだけだったんだね」


そう呟きながら折り畳み傘を開こうとしたけれど、さっき畳むときに骨の部分に布をはさんでしまっていたようで、うまく開かない。

そのうちにも雨は徐々に強くなる。

思い通りにならない傘と格闘していると、ふいに頬や肩を打つ雨がなくなった。


あれ、急にやんだな、と思って顔をあげたら、深い青色の傘に守られていた。

ケイが自分の傘を差しかけてくれていたのだ。


「ありがと」

「大丈夫か、傘こわれた?」

「ううん、はさまってるだけ。ちょっと待ってて」

「ごゆっくりどうぞ」


ぽつぽつと傘を打つ雨の音が私たちを包む。

ケイは待たされているのを気にするふうもなく、道行く人々を眺めていた。


「あ、開いた」


無事に傘が開くと同時に、ショルダーバッグの肩ひもがぽろりと肩から落ちた。

直そうと手を伸ばす前に、ケイの手がさっと動いて元に戻してくれた。


傘に入れてくれるのも、肩ひもを直してくれるのも、とても自然で恩着せがましさがない。

本当にいいやつだ、ケイは。


私がちらりと目をあげると、彼はにやりと笑い、「なに、惚れた?」と悪戯っぽく言った。

私は「ばか」とケイの腕を叩く。

そのまま二人並んで歩きだした。


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