もう一度だけでも逢えるなら
 五時過ぎから、萌の仕事を手伝い、六時前に今週の仕事が片付いた。月曜日の準備もバッチリ。部長に文句は言わせない。

「私がおごるから、飲みに行かない?」
 萌に誘われた。

「ちょっと用事があるんだ」
 冷たい生ビールを飲みたいところだけど、私は断った。

「用事があるなんて、珍しいね」

「うん。ちょっとね」

 他の人たちは残業。部長も残業。定時で帰るのは、私と萌だけ。

 無能だから、残業になる。萌以外の人に対しては厳しい。それが私。良い自分もいれば、悪い自分もいる。自分を偽ってまで、人に好かれようなんて思わない。



 どこにも寄らず、真っ直ぐ帰り、地元の周辺を歩き回って、あの人を捜した。

 八時過ぎまで捜したけど、あの人は見つからなかった。
< 12 / 180 >

この作品をシェア

pagetop