もう一度だけでも逢えるなら
 何も食べず、何も飲まず、夕方までお花見を楽しんだ。

 家族連れの姿はまだちらほらとある。

 子供たちはお花見に飽きたのか、遊具に乗って遊んでいる。

 酔い潰れてしまったお父さん。一人で後片付けをしているお母さん。

 西の空に、夕日が沈んでいく。

 影がだんだん長くなっていく。

 ひと家族、ひと家族、家族連れの影が消えていく。



 私たちも帰ろうか。

 うん。おうちに帰ろう。



 夜風で冷たくなった手で、レジャーシートを畳んだ。

 約半日、お花見を楽しませてくれた桜の樹に向かって、みんなで頭を下げた。

 家族四人で来た道を歩いて家に帰った。

 

 まなちゃんと一緒にお留守番しててね。

 かなでに声を掛けて、厚手のコートを羽織った。



 水樹は立ったまま、かなでの顔をじっと見つめている。

 何も言わず、かなでの額にキスをした。



 水樹と私との二人だけで家を出た。

 肩を並べて歩いて、原っぱに向かった。



 二人で芝生の上に座った。

 水樹はあぐらを掻いている。

 私は体育座り。

 時刻は、七時四十八分十九秒。

 あと、四時間と十一分と三十一秒。
< 161 / 180 >

この作品をシェア

pagetop