もう一度だけでも逢えるなら
 家に帰ってからすぐに、水樹がいなくなったことをかなでに話した。

 かなでは悲しげな表情を浮かべた。何も言わず、悲しげな表情のまま、床に正座した。

 私も床に正座して、かなでの顔を見つめた。

 二人の間に会話はない。

 しばらく沈黙の時間が続いた後、かなでは笑顔になった。

 元気な声で、私にこう言った。



 水樹お父さんより、立派な天使になります。



 私は安心した。安心するとともに、一気に脱力感に襲われてきた。眠気にも襲われてきた。精神的にも肉体的にも疲れた。

 かなでに声を掛けて、眠っているまなちゃんの頭を撫でて、私はベッドに横になった。

 散々泣いたのに、まだ涙が出てくる。

 目を閉じると、私の体が水樹の体を突き抜けた瞬間の映像がフラッシュバックしてくる。

 水樹が消えた瞬間の映像もフラッシュバックしてくる。

 何度も何度も、続けて何度も何度も。



 かなでの声が聞こえる。

 次々と優しい言葉を掛けてくれる。

 私を励ましてくれている。



 私は、かなでの母親。これから、もっと強くならなければならない。

 人としても、母親としても、もっと強くなる。
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