もう一度だけでも逢えるなら
「お一人でピクニックですか?」

 去年と同じおばさんが私に聞いてきた。去年と同じ二匹の犬を連れている。

「娘と一緒にピクニックをしています」

「…………そ、そうなんですか。すごく暑いですからね」

 このおばさんは、私の頭が暑さでやられていると思っているに違いない。

 かなでの姿が見えないのだから、そう思うのは致し方ない。

「ご一緒にどうですか?」

「いえいえ、遠慮しておきます」

 苦笑いをしたおばさんは、二匹の犬を連れて、逃げるように去っていった。

 私は大丈夫だけど、かなでが悲しげな顔をしている。

「あの雲何の形に見えるかゲームの続きをしよう!」

「うん! しよう! しよう!」
 
 かなでは一気に笑顔になった。

「あの雲は?」

「白鳥」

「あの雲は?」

「うさぎさん」

「あの雲は?」

「灯台」

 雲の形を瞬時に例えるかなでの次の人は、いったい誰なのか。

 かなでのような女の子か。男の子か。

 中学生か。高校生か。大学生か。

 お兄さんか。お姉さんか。

 おじさんか。おばさんか。

 おじいさんか。おばあさんか。

 どんなに優しい男性でも、どんなにイケメンでも、私は絶対に浮気しない。

 生涯、独身を貫き通す。

 もし、再会できたら、逆プロポーズする。

 百七歳の、おばあちゃんのプロポーズ。
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