もう一度だけでも逢えるなら
 あ! 私は思わず声を上げた。

 あの人がいる。木陰のベンチに座っている。思わぬところであの人を発見。

 確かに、あの人。モスグリーンのジャケットに、ネイビーのジーンズ。昨日と全く同じ服装。遠目からでもわかる。

 あの人の顔は、上を向いている。仰け反るような姿勢でベンチに両手をついている。

 私には、気づいていない様子。

 心地よい風が吹いているとはいえ、あんな服装で暑くないのだろうか。私は疑問に感じながら、あの人にどうやって声を掛けようか考える。



 こんにちは。

 今日も暑いですね。

 良い天気ですね。

 選択肢はいろいろある。



 私はじっくりと考えて、スタンダードに、こんにちは。と言って声を掛けることにした。私なりの最高の笑顔で。

 あの人はとてもすばしっこい。真正面から近づいたら、逃げられてしまう可能性がある。

 私は茂みの中に隠れて考えて、あの人に気づかれないように、背後から接近することにした。

 まなちゃんを抱っこして、そろりそろりと歩き、素早く真正面に回り込んだ。
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