もう一度だけでも逢えるなら
「こんにちは」

 私に挨拶されたジャケット姿の男性は、口を開けながら驚いている。

 目をパチパチさせながら固まっている。身動き一つしない。完全に固まっている。

 そんなに驚かないでくださいよ。私は心の中でつぶやきながら、ジャケット姿の男性の顔を見つめ続けた。

「やっぱりか……」
 ジャケット姿の男性は、微かに聞こえるくらいの声でつぶやいた。

 ??? 何がやっぱりなのか、私にはさっぱりわからない。
 
「こんにちは」
 ジャケット姿の男性が、やっと挨拶してくれた。

 表情は穏やかで、口許が綻んでいる。

 私に声を掛けられて、喜んでいるのかはわからない。

「何をしているんですか?」
 ベンチに座ったままのジャケット姿の男性に聞いてみた。

「空を見上げていたんです」
 ジャケット姿の男性は、穏やかな口調で答えてくれた。

「そうなんですか。良い天気ですからね」

「はい」

「隣に座ってもいいですか?」

「いいですよ」

 私は、まなちゃんを抱っこしたまま、ジャケット姿の男性の隣に座った。五十センチほど距離を取って。

 歳の近い男性と並んでベンチに座ったのは、三年ぶりくらい。ちょっと心臓がドキドキ。胸が高鳴っているのがわかる。
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