もう一度だけでも逢えるなら
「可愛らしい猫ですね」

「はい。この子の名前は、まなちゃんです」

「まなちゃんですか」

「はい。私は、里崎紗優と申します。あなたのお名前を教えていただけますか」

「名前ですか……」
 私に教えたくないのだろうか。ジャケット姿の男性は、言葉を濁している。

「別に逆ナンしているわけではありませんよ」

「それは、わかっています」

 わかっているなら、教えてくださいよ。私は心の中で大きくつぶやいた。

「教えないといけませんか?」
 声は穏やかだけど、表情はクール。

 やっぱり、私には教えたくないのだろうか。軽い女だと思われてしまったのか。

 それでも私は知りたい。どうしても知りたい。絶対に聞き出してみせる。

「ぜひ教えてください!」
 私は思いっきり声を張り上げた。

 これでダメなら……次の手は考えてある。

「僕の名前は、さとうみずきです」
 やっと教えてくれた。

 もしかしたら、偽名かもしれない。

 せっかく教えてくれたのに、疑うのはよくない。

「どんな漢字なんですか?」

「さとうは、普通の佐藤で、みずきは、水に樹木の樹です」

「佐藤水樹さんですね」

「はい。そうです」

「水樹さんとお呼びしてもいいですか?」

「別に構いませんよ」
 
 構わないなら、水樹さんと呼ばせてもらう。ちょっと慣れ慣れしいとは思うけど。
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