もう一度だけでも逢えるなら
「私は今日はお休みなんですが、水樹さんもお休みなんですか?」

「休みというよりは……」
 水樹さんは言葉を詰まらせた。答えに困っている様子。

 いったい何をしている人なのか。俄然、興味が湧いてくる。

「私は経理の仕事をしているんですが、水樹さんは何のお仕事をされているんですか?」

「…………」
 働いていないのだろうか。水樹さんは困った顔をしている。

「私はこの街で暮らしているんですが、水樹さんはどこにお住まいなんですか?」

「…………」
 また答えてくれない。

 水樹さんは、すっかり無口になってしまった。

 悲しそうな目で、空を見上げている。

 何か事情がある。言えない事情がある。きっとそうだと思う。





 質問攻めはよくないと考え、私は話題を変えることにした。

「お弁当を作ってきたんですが、一緒に食べませんか?」

 玉子焼きは焦げちゃったし、明太パスタはふやけていると思う。

 それでも、水樹さんに食べてもらいたい。美味しくないと思うけど。

「お腹は減っていないので、ご遠慮します」
 きっぱりと断られてしまった。

 まだ十一時過ぎなのに、もうお昼ご飯を食べたのだろうか。

「それでは、この冷たい麦茶を飲んでください」

「喉も渇いていませんので」
 またきっぱりと断られてしまった。

「そうですか……」
 返す言葉は見つからない。残念のひと言しか出てこない。

「それでは、そろそろ行きます」
 うざい女だと思われてしまったのか、水樹さんはベンチから立ち上がった。

 私の方に振り向くことはなく、とても悲しそうな目で、また空を見上げている。

「またお会いできますか?」
 私は慌てて質問した。

「お会いできると思いますよ」
 なんとも曖昧な言い方。

 私はちょっとムッとした。
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